「聖書の時代と風物」

8章  ゲッセマネ:オリーブ圧さく機
10章  収穫
第9章


パレスティナの羊飼いの装備

 聖書は、羊飼いや羊を象徴的に関係づけていることが多くあります。古代のヘブライ人が羊飼いの人々であったので、そのような象徴付けは、意味合いを鮮やかなものにしました。 このように描かれた霊的真実の適用は、彼らにとって理解が容易で、完全に自然なものでした。
イエス様はご自身を、良い羊飼いと呼び、象徴的に用いることによって、数々の貴重な真実を教えられました。 

新約聖書の使徒たちは、イエス様を「大牧者」(ヘブル13:20)(第1ペテロ5:4)と言い、羊飼いとその羊の関係と同じように、イエス様との関係として考えました。

旧約聖書において、エホバ(創造主である神様)はご自身を羊飼いとして啓示されました。( 詩編 80:1 ; イザヤ40:11 ; エレミヤ 31:10 ; エゼキエル 34:12) . これに関連した主要な聖句は、疑いなく詩篇23篇です。
「主は羊飼い、わたしには何も欠けることがない。
主はわたしを青草の原に休ませ、憩いの水のほとりに伴い…
わたしを正しい道に導かれる。
わたしの頭に香油を注ぎ、わたしの杯を溢れさせてくださる。」(1〜3、5節)
これは聖書全体の中でも、最も豊かで、甘美で愛された聖句です。

しかし私たちの現代の機械化された時代に、「羊飼い」にはどんな意味があるのでしょう。
農場で育った人には容易に理解できることがらも、都市の住人には簡単に意味がつかめません。聖書の地域に育ち、そして、近東の文化の内に住んだ人にも同じことが言えます。この知識に基づいて、私は簡潔に聖書の時代の羊飼いの通常の装備を示して、私たちが学ぶことができる豊かなレッスンを指摘しましょう。

鞭と杖
「あなたの鞭、あなたの杖、それがわたしを力づける。」と、ダビデは詩篇23:4で証ししています。
なぜ、羊飼いのむちと杖が、王の慰めとなるのでしょう。むちと杖は二つの異なった物ですが、同じ関係のものでしょうか、それとも全く異なったものでしょうか。これらは同じ道具で同じ関係だと考えられるようになってきました。しかし、これは、本当は正しくありません。 よく似ていますが、ヘブル語では、同じではなく、明らかに2つの個別のものだと示しています。エレミヤ書48:17の聖句は、全く明瞭に2つを区別しています。

「鞭(ロッド)」は、基本的に30インチ程の長さがあります。それは通常片方に、小さな木の根の「瘤(こぶ)」が形成されたクラブです。このこぶの部分には、鉄のクギや、火打ち石をちりばめ、重くして恐ろしい武器にします。熟練した羊飼いたちによって器用に操られるとき、それは、敵を効果的に傷つけることが可能です。或いは、オーストラリアの森林地居住者によってブーメランが投げられるのと同じように敵に投げつけられたことでしょう。反対側は、少し小さな握りとなっていて、端には紐を通す小さな穴があります。 紐を通して、手首から下げたり、ベルトに固定されます。羊飼いは、泥棒や強盗が襲撃したり家畜を略奪しようとすることを防ぐために、これを携帯していました。

ダビデは、彼の父の羊を襲ってくるライオンやクマを殺したとき、この「むち(ロッド)」を使ったことでしょう。ダビデを守り、安全と慰めをあたえてくれたこのむちの思いから、王であったダビデが、慰めの詩篇23篇を歌ったのは当然でしょう。

「杖」(スタッフ)は、何でしょうか。これは、通常、真っすぐな長さが約6フィートの一種の杖(ステッキ)で、時折、一方の端が丸く曲がっているものもあります。
この杖は羊飼いたちが、でこぼこな地面や、丘を登ったり、岩の上をはい回るときよく使われました。「スタッフ」の言葉そのものは、「滞在」、または、「支援」を意味します。 それは、羊を導いたり、しつけたりするためにも用いられました。曲がりの有る杖は、危険な岩の間や、裂け目から羊や子羊を引き上げるためにも使われました。また杖は、1日の終わり夕暮れになって、杖の下を通る羊を数えることにも使われました。
イエス様はこれらのことから、イエス様ご自身の羊の名前はすべて知っていると言われました。

石投げ
羊飼いの石投げは、ダビデが巨人ゴリアテを殺す際に使った道具でした。
それは、羊飼いがいつも持っている装備の一つでした。聖書は、ベニヤミンの人々は、「髪の毛一筋をねらって石を投げても、その的をはずすことがなかった。」と言っています。(士師記20:15、16)

石投げは、大変簡単な道具ですが、非常に正確で、危険な武器です。それは15から16インチの2本の織られた紐からできており、革製の小さいダイヤモンド型のパッドか袋に固定されています。このパッド部分は石が装填されると、袋のように周りが石を包み込むように綴じるために切れ目が入っています。紐は指の当たりで結ばれ、円を描くように高速で回転されます。正確に、頃合いをみはかられ、最大スピードで放たれ、致命的パワーを持って投げ付けられます。羊飼いが、羊が狼やハイエナに襲われても逃げないで、日夜敵を倒し、群れを守ったように、大牧者は信じる人を必ずお守り下さいます。

袋(羊飼いの【合切袋、がっさいぶくろ】 )
この袋はイエス様が弟子たちをイスラエルの町まちへ派遣したとき、袋を持って行かないように命じた時に引き合いに出したものです。(マタイ10:10)
旧約聖書からの引用が私たちに明らかにします。第1サムエル記17:40に「 自分の杖を手に取ると、川岸から滑らかな石を五つ選び、身に着けていた羊飼いの投石袋に入れ、石投げ紐を手にして」と、ダビデについて書かれています。
この羊飼いの合切袋は革で作られ、丈夫な紐で肩にかつがれて運ばれました。中には、パン、オリーブ、チーズ、乾燥したいちじく、及び、乾燥した穀類なども入れられました。

時折、これらの袋は、未加工の皮から天然のままで作られましたが、しばしばしっかりと革なめしされて、きれいに染めたり、すばらしい刺繍が施されていました。商人は、彼らのお金や貴重品をこの袋で運びます。羊飼いは、彼ら自身の必要なものを運ぶためだけでなく、この袋はケガや病気の羊も運ぶアイテム(道具)でもありました。羊飼いは群れの羊たちの内科医でもあり外科医でもあったのです。
わたしたちの羊飼いであるイエス・キリストは、おもいわずらい、恐れやパニック、私たちが陥りかねない困難に対応できる緊急時に必要なもので満たされた「袋」を、私たちすべての羊のために、お持ちです。

羊飼いの笛。
羊飼いは、リードパイプかフルートをいつも持っていました。それで見事な美しい音楽を演奏したことでしょう。羊の群れが水辺で休息しながら横たわり、羊飼いは食事を終えた後で、しばしば笛を取り出し、彼自身の娯楽のためにそしてまた世話をしている羊を慰めるために演奏したことでしょう。また羊飼いは昼間の熱さの中で休むときや、夕暮れの中で歌ったことでしょう。羊たちは「彼の声を知っており」(ヨハネ10:4)、歌声を喜んで聞いたことでしょう。少年ダビデが、父の羊の世話をしながら、歌ったり、詩を暗唱したり、甘美な音楽を作ったりしただろうと想像できます。ダビデは笛だけでなくハープやほかの楽器にも熟練していました。彼の音楽的な能力が詩篇に反映されています。

羊飼いの外套。
羊飼いたちが衣服の一番上に身につけた大きい外套は、乾燥させた自然の重い、手織りの羊毛から作られている衣服で、なだらかにたれた大きなローブです。
北アフリカでは、ケープのようなフードがついており、雨や冷たい天気では頭の上に引っぱり上げられます、しかし普通は、後ろに垂れ下がった状態で使われます。
しばしばフードは後ろの位置で一種のナップサック(背嚢)として使用されます。 外套は短い、広いそでになっており、ゆったりしています。 そのため両手が冷たくて暖めたい時には内側に引っ込められることができます。 夜になると、羊飼いはフードを引っ張って頭をおおい、腕や手を引っ込め、暖かいローブの中に足も丸めてしまいます。この衣服は毛布がわりにもベッドにもなるのです。

「もし、隣人の上着を質にとる場合には、日没までに返さねばならない。
なぜなら、それは彼の唯一の衣服、肌を覆う着物だからである。彼は何にくるまって寝ることができるだろうか。」(出エジプト22:25、26)
ここにモーセの法律が規定した理由があるのです。

この衣服が常に大きくて、そして ゆったりした胸に抱くことのできる十分なスペースがありますから、新しい生まれたての子羊を運んだり、病気や怪我をした羊が健康を取り戻すまで運んだり看護することができました。 また羊飼いの自身の体の暖かさが、治癒と健康を促進する助けとなります。

預言者イザヤがメシヤであるエホバの恵みを美しく描いたのはここからでした。
「主は羊飼いとして群れを養い、御腕をもって集め、小羊をふところに抱き」(イザヤ 40:11 )のみことばです。

 

「聖書の時代と風物」

8章  ゲッセマネ:オリーブ圧さく機
10章  収穫