第５章
実を結ばないイチジクの木
実を結ばないイチジクの木へのイエス様のさばきの宣告は、怒りの衝動ではなくて弟子たちと人々への厳粛な霊的レッスンとしての教育的目的でなされました。（マルコ１１：１２〜１４、２０、２１）。私たちが「実を結ばないイチジクの木」について語る時、このことを覚えていなくてはなりません。
イエス様が実を結ばないイチジクの木でのろいとさばきを宣告した意味は何でしょうか。イチジクの木は二つの異なった実を産します。聖地や中東での標準的な言語のアラビヤ語では、これらの二つの果実ははっきりと別の名前で知られています。早く成長する方は「バアクアー（baakoor)」と呼ばれており、一方普通のイチジクは「キルムース(kirmoos)」と呼ばれなじみの深いものです。早い方は３月の終わりから４月、５月にかけて熟し、他方は夏の終わりから秋にかけて熟します。バアクアーは熟れるまで木になったままで残すことはありません。実は乾燥させるか普通のイチジクと同様に利用されます。それは「グリーン」と呼ばれる状態の直接木からもいで食べる生食方法です。イチジクの実は大変柔らかでふくらみがあり、初めて食べる人にはうんざりするほどのはなはだしい甘みがあります。ところがこれらの初めの時季外れのイチジクには商売用の価値はないので、しばしば摘果されるか、通り合わせた人が食べる程度です。
イチジクの木のもう一つの重要な点は、早いほうの実は葉より先に枝にできることなのです。イチジクの葉は十分成長すると、サイズ的にも大きく、かなり重みのある手触りがあります。もし葉が十分発育するまでに早いほうの実が木に着いていないとなると、その年その木には実は育たないという確たる結論が導かれるのです。これが、イエス様が弟子たちと旅行したときに出会った木の状態だったのです。イチジクの木はすでに葉は十分成長していました。彼らはそこに早いほうの実のバアクアーを当然期待したのでした。その木はたくさんの果実を約束し、期待に十分に答えてくれる豊富な葉でいっぱいでした。それは偽善の木であることを証明するものでした。さらにこの後も依然として実を結ばない事が明らかなのです。イエス様はそこにさばきを宣告されたのです。翌日弟子たちはその木を見て驚嘆しました。完全に「根元から枯れていた」（マルコ１１：２０）からです。パレスティナのイチジクの木は、潅木ではなく小さな植物でもありません。どちらかと言えばかなり大きな木です。数年しか経っていない、まだ実のならない木でも高さ２０フィート以上になるのですから、この奇跡の驚きはさらに大きなものになるでしょう。
イエス様のことばと行いはともに寓話として意図されたのです。イエス様は偽善を軽蔑していました。イエス様はいつも、実を結ぶことのない信仰告白を非難していました。このイチジクの木は、葉を見せておりながら、実を結ぶべきでありながら、その葉の中は空虚だったのです。偽りの信仰告白なのです。
聖書で、イスラエルの民はたびたびイチジクの木にたとえられました。イエス様はご自身の所有のこの民に、霊的な実を期待して来られました。神への敬虔な生活、公正、愛、神のみことばへの服従と信仰を、人々のうちに発見されるはずでした。ところがイエス様が見られたのは、偽善、無感覚、空虚な信仰告白、まことと力のない形式的な敬虔、悔い改めと信仰によらない誇りでした。偽善のイチジクの木は、この民の状態を鮮やかに描き出す都合のよい機会をイエス様に与えました。この木のさばきは、民へのすみやかなさばきを表していたのでした。西暦７０年にローマ軍によってエルサレムは征服され略奪された時にそのさばきは下されました。そして人々は２千年間もの長い間、四方に散らされたのでした。「エホバ」が植えられ、育てられた特別な木は、再び実を結ぶことがないように根元から完全に枯れてしまった国として、神のさばきの下におかれたのでした。
しかしこの国が死に絶え、消滅してしまわなかったのは、ただ神の恵みでありました。このエピソードのあとでイエス様ご自身がこのイチジクの木が復活し芽を出すことを約束されました。聖書の多くの箇所で、国はよみがえり、元の位置を占め、霊的な実を結ぶことが
預言されていました。旧約聖書はこのことを明白に預言していますし、パウロも新約聖書のローマ人への手紙１１章で疑いもなく記しています。
この実を結ばないイチジクの木のレッスンは私たち一人一人にとっても重要です。神は、どんな場所での偽善をも、嫌われ、必ず非難なさるのです。
今日の教会は、悔い改めのない信仰告白と実のない葉の生い茂った、この「実を結ばないイチジクの木」に似ていないでしょうか。
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